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東京家庭裁判所 昭和62年(家)1504号 審判

申立人 カール・D・パーキンス

未成年者 周大飛

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

第1本件申立ての趣旨

主文同旨

第2当裁判所の判断

1  本件記録にあらわれた各資料によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人の曾祖父は、ロシアから中国(青島)に移住したユダヤ人であり、申立人の祖父は、ハルビン(哈尓濱)で貿易会社を経営していた。

(2)  事件本人の曾祖父は、ハルビンで、申立人の祖父に雇われていた中国人であり、事件本人は1972年3月22日中華人民共和国黒龍江省哈尓濱市で出生した。

(3)  申立人の家族は、その後生活の本拠をアメリカに移したが、ハルビンを第2の故郷として毎年のようにハルビンに出向き、事件本人の家族と相互に親族同様の交流をしてきた。

(4)  申立人は、1952年8月22日アメリカ合衆国カリフオルニア州で出生したが、父が貿易商であるため、出生後間もなくハルビンにいた父の許に赴き、4歳頃まで同地で生活した上、中学及び高校時代をインドで過ごし、高校途中からアメリカに移り、大学では心理学を専攻した。

(5)  申立人は、昭和60年3月来日し、以後その生活の本拠を日本に置いており、昭和61年4月○○○○株式会社に就職している。

(6)  申立人は、昭和60年に妻と離婚したが、申立人には子供がないため、昭和61年正月ハルビンで事件本人の家族に、申立人と同居してくれる者が欲しい旨を話し、以来、外国で勉学したいとする意向をもつ事件本人と文通を続けた。その後申立人は、昭和61年5月頃商用で上海に滞在した際、事件本人を呼び寄せ、同地で同人と1か月程同居し、これにより事件本人が申立人の養子となることで両者の意向が固まつたため、申立人の父母も上海に出向いてこれに同意した。

(7)  中華人民共和国黒龍江省哈尓濱市に在住し、いずれも学校の教師である事件本人の両親は、「我々の家族と申立人の家族とは、申立人の家族の家がもとハルビンにあつた関係で100年以上にわたり親密な付き合いを続けてきており、申立人についてもその子供の頃から良く知つている。申立人の人柄であれば安心できるし、事件本人にはその希望どおり外国で勉強させたいので、事件本人が申立人の養子となることに大賛成である。」旨、1987年2月26日付け書面をもつて本件養子縁組に同意している。

(8)  事件本人は、昭和61年12月に来日し、以来表記住所で申立人とともに2人で生活しており、現在は日本語学校に通つているが、申立人は、事件本人を養子とした上、今後事件本人の希望により、更に同人に勉学をさせたいと考えており、事件本人も申立人の養子となり、今後アメリカ国籍を取得したいとする希望を有している。

2  上記認定事実によれば、本件は、アメリカ合衆国(カリフオルニア州)籍にある申立人及び中国籍にある事件本人間の渉外養子縁組事件であるが、申立人及び事件本人はいずれも表記住所に居住しているから、その国際裁判管轄権が我が国にあり、国内におけるその管轄権が当裁判所にあることは明らかである。

3  法例19条によれば、養子縁組の要件は各当事者につきその本国法により定められるから、本件においては、養親についてはアメリカ合衆国カリフオルニア州法が、また、養子については中華人民共和国法がそれぞれ準拠法となるところ、中華人民共和国においては、養子縁組に関する専門法は未だ制定されていない。しかし、中華人民共和国婚姻法(1981年1月1日施行)20条には、「国家は合法的な養子縁組関係を保護する。養父母と養子女との間の権利義務は、この法律の父母と子女との関係についての規定を適用する。養子女と生父母間の権利及び義務は、養子縁組関係の成立により、消滅する。」旨の規定があり、中国では、養子縁組はこの婚姻法の精神に基づいて具体的な情況に照らして処理されていることが明らかであるから、養親及び養子となるべき者の年齢、意思能力、縁組意思、縁組の目的及び効果、当事者の両親の同意の有無等を考慮し、また、養子となるべき者が未成年者である場合にはとくに未成年者福祉の観点からこれを検討した上、これらの諸点についていずれも支障がなく、養子縁組関係の成立を妥当と認める場合には、その成立を容認することができるものと解して妨げないと考えられる。

4  カリフオルニア州養子法(カリフオルニア州民法タイトル2親及び子第2章養子)によれば、未婚の未成年の子は成年者の養子となることができ(221条)、養親と養子との年齢差は10歳以上であること(222条)、養子となる未成年子についてはその両親の同意があること(224条)を要し、また、子の年齢が12歳以上であるときはその子の同意を必要としている(225条)が、上記認定事実によれば、申立人は年齢34歳の成人、事件本人は年齢15歳の未婚の未成年者であつて、申立人及び事件本人は共に本件養子縁組をその自発的かつ自由な意思により積極的に希望しており、申立人と事件本人との年齢差は19年で、本件養子縁組については事件本人の両親の書面による同意もあるから、上記各条項の要件をいずれも充足しているところ、他に上記州法に照らしてこれに違反する事情があるとは認められない。また、申立人及び事件本人の家族は、歴代親密な相互関係を維持してきた間柄であつて、当事者はもとより、その双方の両親も本件養子縁組に賛成しており、当事者もすでに同居してその相互関係の良好なことを確認していること等上記認定事実に鑑みると、本件養子縁組については、これを認めることが事件本人の福祉に沿うというべきであり、中国法上もとくにこれを妨げるべき事情があるとは認められない。

5  以上によれば、申立人と事件本人との間の本件養子縁組については、これを許可するのが相当である。

よつて、本件申立ては理由があるからこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山田博)

参考

カリフォルニア州民法

第221条【子は養子とすることができる。子の定義】未婚の未成年の子は、第227条Pを除く本章の規定による事件において、それらの規定に従つて成年者の養子となることができ、成年者又は婚姻をした未成年の子は、第227条Pの規定による事件において、その規定に従い他の成年者の養子となることができる。

本章において「子(child and children)」とは、第227条P、第228条、第229条及び第230条を除いて、未成年の子をいう。第228条、第229条及び第230条においては、「子」には、未成年者及び成年者双方を含む。第227条Pにおいて「子」とは、成年者及び婚姻した未成年者をいい、未婚の未成年者を含まない。

第222条【縁組に必要な年齢の差】(a)(b)項に規定する場合を除き、養親は、養子より少なくとも10歳以上年長でなければならない。

(b)裁判所が、継親による縁組、兄弟姉妹、叔父、叔母若しくはいとこによる縁組又はこれらの者が婚姻しているときにおけるこれらの者及びその配偶者による縁組がその当事者及び公益の利益にかなうと認めたときは、縁組当事者の年齢に関係なく、縁組を許可(approve)することができる。

第224条【両親の同意】7004条(a)により推定される父を有する子については、両親が生存しているときは、その同意を得なければ養子とすることができない。ただし、司法上の命令又は両親の協議により一方の親に監護権が与えられており、他方の親が1年間、それが可能であるにも拘らず、故意に子と交信すること又は保護、援助及び教育のために支出することを怠つたときは、監護権を有しない親が227条に基づいて裁判所の指定する日時及び場所に出頭すべきことを要求する民事裁判における召換状の送達に関する法律に規定されている方法で召換状の謄本が送達された後においては、監護権を有する親のみで縁組の同意をすることができる。親が1年間、子の保護、援助及び教育のための支出をしなかつたこと又は子と交信しなかつたことは、それが故意によるものであり、合法的理由によるものではないことの一応の証拠となる。第7004条(a)により推定される父を有しない子については、その母が生存しているときは、その母の同意を得なければ養子とすることができない。ただし、次に掲げる場合においては、父又は母の同意は必要ではない。

1 そのような父又は母が(a)この法律の第1編第3部タイトル2第4章(第232条から始まる。)に従い、子を一方の親又は両親の監護及び監督から解放することを宣告する命令、又は(b)他の管轄裁判所のその権限を与えた法律に基づく命令又はそのような父又は母が司法手続において子の監護権及監督権の放棄について規定する法律に従い子の監護権及び監督権を任意に放棄したことに基づく類似の命令により、監護権及び監督権を剥奪されている場合。

2 そのような父又は母が子の同一性が確認できるものを残さずしてその子を遺棄した場合。

3 そのような父又は母が縁組のために第224条mの規定するところにより子を引き渡したとき又は他の管轄区域の免許を受けた又は権限のある子収容機関にその管轄を認めた法律に従い子を引き渡した場合。

第225条 【子の同意】子の年齢が12歳以上であるときは、縁組にはその子の同意が必要である。

中華人民共和国婚姻法(1981.1.1施行)

第20条 国家は合法的な養子縁組関係を保護する。養父母と養子女との間の権利及び義務は、この法律の父母と子女との関係についての規定を適用する。

〈2〉 養子女と生父母間の権利及び義務は養子縁組関係の成立により消滅する。

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